pidfdとは
pidfdは、LinuxカーネルにおけるプロセスID (PID) ファイルディスクリプタのことです。
pidfdを使うと、プロセスを直接操作したり、監視したりすることが可能です。pidfdは、Linux 5.1 以降で導入されました。
主な特徴と利点
- レースコンディションの回避
-
従来、プロセスID (PID) に基づいてプロセスを操作する際、プロセスが終了し、そのPIDが他のプロセスに再利用されるというレースコンディションが発生する可能性がありました。pidfdを使うことで、このような問題を回避できます。
具体的には、以下のような問題を回避できます。
- プロセスAが存在し、そのPIDが1234とします。
- 別のプロセスBがプロセスAの状態を確認するために、kill(1234, 0)を呼び出して、プロセスAが生存しているかどうかを確認します。
- プロセスAが終了した直後、システムがPID1234を新しいプロセスCに再利用したとします。
- プロセスBが再びkill(1234, SIGKILL)を実行してプロセスAを終了させようとした場合、実際にはプロセスCが終了させられることになります。
pidfdは、PIDに関連付けられたファイルディスクリプタで、特定のプロセスを一意に識別し続けることができます。そのため、上記のようなPID再利用に伴うレースコンディションを回避できます。
- プロセス監視の強化
-
pidfdを使用すると、特定のプロセスを簡単に監視できます。select関数やepoll関数などを使ってプロセスの状態変化を監視することが可能です。
select関数とepoll関数については以下の記事で紹介しているので、興味があればご覧ください。
selectとepollの違いと実装例 【selectとepollとは】 select と epoll は、いずれもでI/O多重化を行うための関数です。 使い方としては、複数のファイルディスクリプタの状態を監視し、どのファイル…
使用例
C++でpidfdを使用して、特定のプロセスの終了を監視する簡単な例を紹介します。
#include <sys/types.h>
#include <unistd.h>
#include <sys/syscall.h>
#include <poll.h>
#include <iostream>
#include <cerrno>
#include <cstring>
// pidfd_open のラッパー関数
int pidfd_open(pid_t pid, unsigned int flags) {
return syscall(SYS_pidfd_open, pid, flags);
}
int main() {
// 例として、子プロセスをフォークする
pid_t pid = fork();
if (pid == -1) {
std::cerr << "fork failed: " << strerror(errno) << std::endl;
return 1;
}
if (pid == 0) {
// 子プロセス側のコード (5秒後に終了)
std::cout << "Child process started (PID: " << getpid() << ")" << std::endl;
sleep(5);
std::cout << "Child process exiting" << std::endl;
return 0;
} else {
// 親プロセス側のコード
std::cout << "Parent process, monitoring child PID: " << pid << std::endl;
// pidfd_open で子プロセスに関連付けられた pidfd を取得
int pidfd = pidfd_open(pid, 0);
if (pidfd == -1) {
std::cerr << "pidfd_open failed: " << strerror(errno) << std::endl;
return 1;
}
// 子プロセスの終了を監視
struct pollfd pfd;
pfd.fd = pidfd;
pfd.events = POLLIN;
int ret = poll(&pfd, 1, -1);
if (ret > 0) {
if (pfd.revents & POLLIN) {
std::cout << "Child process terminated" << std::endl;
}
} else {
std::cerr << "poll failed: " << strerror(errno) << std::endl;
}
// pidfd をクローズ
close(pidfd);
}
return 0;
}
コードの流れ
1. プロセスの作成
親プロセスと子プロセスを作成し、子プロセスは5秒後に終了します。
2. pidfdの取得
- 子プロセスのPIDを使ってpidfd_open関数を呼び出し、pidfdを取得します。
- 取得したpidfdを使って、子プロセスの終了を監視します。
3. pollを使用した監視
poll関数を使用して、pidfdを監視します。子プロセスが終了すると、poll関数から応答が返り、POLLINイベントを検出します。
4. プロセスの終了
子プロセスが終了すると、poll関数は制御を返し、Child process terminated
というメッセージを表示します。
5. リソースの解放
pidfdを閉じて、リソースを解放します。
実行結果
Parent process, monitoring child PID: 4169
Child process started (PID: 4169)
Child process exiting
Child process terminated